W・D・レイミー著
松田出訳

 


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The Literary Design of 1Samuel-1Kings2- Dr. William D. Ramey

原著: http://www.inthebeginning.org/chiasmus/Xfiles/xsamuel.pdf
出典サイト: http://www.inthebeginning.org/

サムエル記の文学的構造 ウィリアム・D・レイミー著 松田出訳

サムエル記(ヘブル語聖書では第一サムエル記と第二サムエル記はひと続きの書物)は「ダビデ記」と称する方が、あるいは適切かもしれない。主人公はサムエルというよりダビデだからだ。サムエル記のテーマは、神のみこころを求め続け、神のみこころにかなってイスラエルの王座に着けられたダビデの生涯である。

サムエル記におけるダビデの生涯を一時代一テーマとして、六つ程度の部分に分けるのが通例である。しかし構造を詳しく調べると、第一列王記1:1〜2:46を合わせて、明確に七つの部分で構成されていることがわかる。また、それぞれの部分もたくみに設計された内部構造を持っている。概略は次のとおり。

1. サムエルの誕生、支配(第一サムエル記1-7)
2. サウル、支配する、過ちを犯す、神に拒絶される(第一サムエル記8-15)
3. サウルの王宮でのダビデ(第一サムエル記16-20)
4. ダビデ、逃亡者になる(第一サムエル記21-31)
5. イスラエルの王となったダビデとサウルの家への寛大さ(第二サムエル記1-8)
6. ダビデの罪とその恐ろしい結末(第二サムエル記9-20)
7. ダビデの最後の年とソロモンの即位(第二サムエル記21-第一列王記2)

■第一サムエル記1:1-第一列王記2:46の概略

第一サムエル記1:1-第一列王記2:46の文書は、基本的に歴史の流れにしたがって記述されている(概略0参照)。少なくとも以下に述べる構造の概略によって、キーワードのくり返しがどの箇所で何回行なわれているかを知ることができる。キーワードのくり返しは、構造の対称性を見つけ出すのに重要だ。たとえば、エリの息子たちの悪行のストーリー、ジフ人がダビデを裏切るストーリー、ダビデがサウルの命に手を下さなかったストーリーなどは、それぞれ並行する二つのストーリーから構成されていることがわかる。

テーマはそれぞれ特定の構造によって補強されている。たとえば、サウルとサウルの家にダビデがいつくしみを施すストーリーには驚くほど多くの他のストーリーが並行している。これらによってダビデの忠実さが強調されている。明らかにサムエル記の目的のひとつは、ダビデがサウルとサウルの家にとって敵になり、罪に定められた状態を示すことにある。

同時にサウルの子供たちがいかにダビデを愛していたかについてのストーリーもまた、たくみに配置され、サウルの法廷においてダビデに罪がないことを強調する。また、別の箇所ではダビデを弁護して、彼が確かに神のみこころにかなうイスラエルの王であることを明らかにしている。

サウル、サウルの家と王宮の者、シムイのような敵に対するダビデのあわれみについてのストーリーが並行しているのも興味深い。これらの並行関係にあるストーリーは、賞賛すべきダビデの生涯を示す上で目を引く。

そればかりでなく、ナバルへの復讐を思いとどまったダビデのあわれみ深さがストーリーの中心になっている。ここでのポイントは明らかだ。つまり神のみこころを求める者は、個人的な敵への復讐を求めることはしない。彼はかえって、すべてをご存知で義であられる神にゆだねるのだ(第一サムエル記16:12)。

■概略0 第一サムエル記1-第一列王記2:46の構造

A サムエル、エリの後を継ぎ、イスラエルを支配する(第一サムエル記1-7)
−ハンナの歌:  わが角、わが岩、墓、死、天からの雷鳴、高く上げる、力を帯びる、暗黒、足、油注がれた者、王に与える、へりくだる、たかぶる、ただひとりの神、などなど
−テーマ:祭司エリの家が絶える
−主による疫病とそれをとどめようとする人々の試み(4:1-6:21)
−人々、2頭の雌牛に契約の箱を引かせる 雌牛は全焼のいけにえとなる(疫病がやんだ後) 牛が引く車はたきぎとなり、岩の上に契約の箱がすえられる

B サウルの過ち(第一サムエル記8-15)
−アモン人の王ナハシュに対する戦いがイスラエルへの侮辱から始まる
−サウルの罪が明らかになり、サムエルがこれを責める
−サウルの反応:言いわけ

C サウルの王国でダビデがはじめて名声を得る(第一サムエル記16-20)
−サウルははじめダビデを受け入れ、ついで敵対する
−ダビデがサムエルに油を注がれ、ミカルがダビデと結婚する
−テーマ:サウルの家の者、ダビデに好意を寄せる

X 主がサウルとダビデの将来を逆転させる:サウルがダビデを殺そうと謀るが自分が死ぬ(第一サムエル記21-31)

C'全イスラエルでダビデがはじめて名声を得る(第二サムエル記1-8)
−サウルの王国ははじめダビデを拒絶し、ついで受け入れる
−ダビデがユダに油を注がれ、ミカルがダビデと再婚する
−テーマ:ダビデ、サウルの家の者を丁重に扱う

B'ダビデの過ち(第二サムエル記9-20)
−アモン人の王ナハシュに対する戦いがダビデの使者への侮辱から始まる
−ダビデの罪が明らかになり、ナタンがこれを責める
−ダビデの反応:悔い改め

A'ソロモン、ダビデの後を継ぐ;ダビデの最晩年(第二サムエル記21-第一列王記2)
−ダビデの歌(ハンナの歌と明らかに呼応している):  わが角、わが岩、墓、死、天からの雷鳴、高く上げる、  力を帯びる、暗黒、足、油注がれた者、王に与える、  へりくだる、たかぶる、ただひとりの神、などなど
−テーマ:祭司エリの家が絶え、ツァドクがエブヤタルにとって代わる
 「シロでエリの家族について語られた主のことばはこうして成就した」(第一列王記2:27)
−主による疫病とそれをとどめようとする人々の試み(第二サムエル記21, 24)
 疫病のひとつは契約の箱のある場所を打つ
−ダビデ、打穀用の2頭の牛を全焼のいけにえにする(疫病がやんだ後)
 牛の用具をたきぎとして使う(契約の箱は岩の上にある)

サウルとダビデそれぞれの破滅的な罪が並行的にくり返されているのは、もうひとつの重要なポイントだ。両方のストーリーにおいて罪が詳しく描かれている。神は彼らの罪をあばいて責め、罪の恐るべき結果がもたらされる。サウルは王国と自身の命を失い、ダビデは家族を引き裂かれる。このくり返し構造は、イスラエルの指導者(および民)が神と律法に従うことがいかに重要であるかを教える。

さらに、サウルとダビデそれぞれの反応が対比されているが、罪を犯したときにはダビデのように真剣に悔い改めるべきであり、サウルのように弁解に終始してはならないのだ。

その他にもくり返しによって展開されたり補強されたりするテーマがある。主の導きを求めること、逆境にあっても主に従うことの重要性についてのテーマだ。たとえば、ダビデがいのちの危険を顧みずにユダの町を助けたことがそれにあたる。

最終的に神は悪を正し、悪者を罰し、正しい者に報いるというテーマは、最も大切なテーマのひとつだ。悪者が一時的に栄えることもある(エリの息子たち、サウルなど)。しかし、神は必ず彼らに罰を与えずにはおられない。それとは逆に、正しい者が極端な苦しみに会うことがある。しかし、神は彼らの苦しみの間も彼らとともにおられ、守り導いておられる。

このポイントは、たとえば、悪いサウル王からダビデが奇跡的に逃れたストーリーが並行していることによって強調される。神はみこころに従う者を必ず守ってくださる。サムエル記を読む者は、神と神の律法に従うべきことに気付かされる。神は最終的に、従う者に良く報い、神を避ける者に罰を与えてご自分の律法の正しさを見せてくださるのだ。

 
序文
サムエルの誕生と支配(第一サムエル記1-7)
サウルの支配・罪・神の拒絶(第一サムエル記8-15)
サウルの王宮におけるダビデ(第一サムエル記16-20)
ダビデの逃亡(第一サムエル記21-31)
ダビデの王座の確立とサウルの家族への誠実(第二サムエル記1-8)
ダビデの罪とその結末(第二サムエル記9-20)
ダビデの最晩年とソロモンの王位継承(第二サムエル記21-第一列王記2)
 
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