VII. ダビデの最晩年とソロモンの王位継承
(第二サムエル記21-第一列王記2)
サムエル記の結びである7番目の大きなストーリーのまとまりは、ダビデの支配のようすを詳しく描き、ソロモンへの王位継承を述べる(概略7)。このストーリーの終わりに第一列王記の最初の2章が含まれているが、それには少なくとも2つの理由がある。
[理由1]
ダビデ王の偉大な歴史のストーリーが、疫病の裁き(第二サムエル記24)で終わるのであれば中途半端だ。記者はストーリーの結末であるダビデの死の前後を詳しく書いている。しかしそれは第一列王記1章と2章に含まれている。
[理由2]
サムエル記で登場した人物、ヨアブ、シムイ、エブヤタル、ツァドク、ベナヤについての詳しい記述は第一列王記1章-2章に現れる。つまり、第一列王記1章-2章においてサムエル記の人物たちのストーリーが収束するのだ。ソロモンの王位継承の導入を強調するために、後代の聖書編集者たちはダビデの死のストーリーを、サムエル記の終わりから列王記の始めに移動したと想像される。
■概略7 ダビデの最晩年とソロモンの王位継承(第二サムエル記21-第一列王記2)
A サウルがギブオン人を殺したことによるききん(第二サムエル記21:1-14)
−主が国の祈りに答えられる(21:14)
B ダビデの勇士たちの活躍(21:15-22)
−ペリシテ人の闘士を倒したストーリーの詳細
C 主をたたえるダビデの歌(22:1-51)
C'ダビデへの主の言葉(23:1-7)
B'ダビデの勇士たちの活躍(23:8-39)
−ペリシテ人の闘士を倒したストーリーの詳細
A'ダビデが人口調査をしたことによる疫病(24:1-25)
−主が国の祈りに答えられる(24:25)
結び:ダビデの死とソロモンの王位継承(第一列王記1:1-2:46)
−王国はソロモンによって確立した(2:46)
第二サムエル記21章-第一列王記2章の構造は通常は見られないパターンだ。全体は7部からなる(第一列王記1章-2章を含めた場合)が、第二サムエル記21章から24章までは6部に分かれた一つのキアスマスであり、最後の第一列王記1章-2章は独立して別の構造を持つ。詳しい話に入る前に、もう一度第一サムエル記からの全体の流れを思い出してみよう。
- 第一サムエル記1章-7章 イスラエルの王制の始まり
- 第一サムエル記8章-15章 イスラエルの王制の実施
- 第一サムエル記16章-31章 王国の確立
- 第二サムエル記1章-20章 ダビデによる王国の安定化
というストーリーが第二サムエル記21章-24章の前にあった。これにつづく第二サムエル記21章-24章の目的は、威厳に満ちたさばきつかさサムエルの歴史、サウルの歴史、ダビデの歴史をまとめることだ。
このまとめの部分について、神学的な重要性が低いと考えたり、その前に述べられている王朝の歴史の箇所よりも重要性が低いと考えるのは大きな誤りである。散文と詩を組み合わせた高度な技巧は、イスラエルの偉大な王の歴史の幕を閉じるのにふさわしい。第二サムエル記21章-24章は、めったやたらにつぎ足された「おまけ」などではなく、ダビデの生涯を「メシアの予型」として神学的に記述するために計算されたものだ。
■概略7.1 第二サムエル記21-24の構造
A イスラエルに対する主の怒り(21:1-14)
B ダビデの勇士たち(21:15-22)
C 主をたたえるダビデの歌(22:1-51)
C'ダビデへの主の言葉(23:1-7)
B'ダビデの勇士たち(23:8-39)
A'イスラエルに対する主の怒り(24:1-25)
この種のアウトラインは、時間的順序の正確さよりも技巧を優先させるものともいえる。第二サムエル記21章-24章が確かにひとつづきであることを示す二重インクルージオにも注目したい。下記のように、このインクルージオは21章の初めの節と24章の終わりの節を連結する。
- 三年間引き続くききん(21:1)
- 三年間のききん(24:13)
- 神はこの国の祈りに心を動かされた(21:14)
- 主が、この国の祈りに心を動かされた(24:25)
ダビデへの主の言葉(C' 第二サムエル記23:1-7)は、それ自体をキアスマスとして展開できる。神が立てられた王ダビデのありさまを歌の中心部に置くことによって、「主」がダビデの最後のことばの中心になるように構成されている。主が中心であるがゆえに、これが「最後のことば」なのだ。
■概略7.1.1 第二サムエル記23:1b-7
a ダビデ、三人称形で自分を紹介する(1b-e)
b ダビデ、一人称形で語る(2-3b)
x 主が語られる(3c-4)
b'ダビデ、一人称形で語る(5)
a'ダビデ、三人称形で悪者を描写する(6-7)
■概略7.2 ソロモンの王位継承(第一列王記1-2)
A アドニヤ、王位を奪おうと画策する(1:1-11)
B アドニヤの画策、覆される:ソロモン、アドニヤを責めない(1:12-53)
C ダビデ、ヨアブとシムイを殺すことをソロモンに指示する(2:1-9)
X ダビデの死(2:10-22)
A'アドニヤ、再び王位を奪おうと画策する(2:13-22)
B'アドニヤの画策、覆される:ソロモン、アドニヤを打ち取る(2:23-25)
C'ソロモン、ヨアブとシムイを打ち取り、エブヤタルを罷免する(2:26-46)
サムエル記では、イスラエルの指導者として祭司、預言者、王(エリ、サムエル、サウル、ダビデ)の三つの職が、予測できる形で秩序立って引き継がれていった。それに比べてダビデの後継者選びは、先の読めない不安定なものだったことがストーリー全体からうかがえる。
ダビデ王の後継者が決まるまでに信じられないほど多くの犠牲が払われた。ダビデの息子のうち四人(アムノン、バテ・シェバの初子、アブシャロム、アドニヤ)は、第一列王記2章までの間に、人の罪によって起こされるあらゆる災禍と戦乱の中で死んでしまう。直接的であれ間接的であれ、それぞれの死にははっきりした原因があった。
第二サムエル記7章では、後継者が誰であるか知らされないまま、ダビデが神に選ばれた王であり、しかもダビデの家が王の家系として永遠に立てられるという約束が与えられる(第二サムエル記7:1-17)。
これに先立って、ダビデがユダとイスラエル両方を治めている時期にダビデの息子たちの名前が挙げられている(第二サムエル記3:2-5)が、ここには六人しかいない。注意深い読者なら、いるはずの七番目の人物が欠けていることに気づくだろう。七番目は誰だろうか。ふつう重要人物は七番目に登場するものと決まっている。たとえばボアズはペレツから七代目の人物だ(ルツ4:18-21)。
その後ダビデに与えられた息子たち(第二サムエル記5:13-15)の名前のリストにもはっきりした手がかりはない。彼らはダビデがさらにめとったそばめたちと妻たちから生まれた(第二サムエル記5:13)。ソロモンの名前はリストの四番目にそっけなく挙げられているだけである。
後継者に関する情報がほとんど明かされていないのは、統一された新王国のこれからの長い道のりと、王家の前途に横たわる苦難とを示しているのだろうか。文学的構造によく注意するならば、これらのことに気づかないではいられないのである。
(終)
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