W・D・レイミー著
松田出訳

 


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要素F-F'の並行

F エジプトへ下る(42:1-46:7)
F'エジプトでの生活(46:28-47:12)


ヨセフ物語が展開するにつれて、兄弟たちの二度にわたるエジプト行のストーリーが現われる。1回目は食糧購入に出かけ、2回目はシメオンを解放するためにベニヤミンを伴って行く。この二つのストーリーの並行はヤコブの家族がエジプトに移住し、ゴシェンの地に住むようになった経緯を説明するものだ。はじめのストーリー(F)は、おもに系図にかかわる人物の情報であり、次のストーリー(F’)はヤコブとその息子たちがパロに引き合わされたときの描写である。

FとF’を対応させる要素は多い。

  1. 1. 「下って行く と「エジプト (42:1-2)の二語が、46:3においては「エジプトに下って行く のように連語に置き換えられている。

  2. 兄弟たちはヨセフに対して自分たちを「あなたのしもべども」と呼び(42:10,11,13)、パロに対しても同じように言う(46:34; 47:3,4)。

  3. ユダは目立った働き(43:3-10)をし、46:28でも同様。

  4. 送る」の語幹 は、ヤコブがユダを先頭にして息子たちを送り出したこと(43:4-5)と、ユダを先に遣わして道を示させたこと(46:28)とを関連づけるために使われる。

  5. 私の顔を見てはならない」というヨセフの言葉がヤコブへの状況説明の場面(43:5)で引用され、46:30ではヤコブ自身の言葉「あなたの顔を見た」として使われる。

  6. 上記と同じく、ヨセフの言葉「あなたがたの父はまだ生きているのか」はヤコブに対する説明(43:7)の中で引用され、「あなたがまだ生きている」(46:30)というヤコブ自身の言葉としてくり返される。

  7. 口の は袋の口という意味で使われ(44:1,2,8)、45:21では人間の口の意味で使われる。

  8. ベニヤミンはFにおいて、特に44:12では重要な役割を負う。また、ユダの陳述ではベニヤミンが最年少の弟であることが述べられる(44:18-34)。ベニヤミンはF’の45:22においても特別に扱われる。

ここにおいても、キアスマス構造を観察することによって、批評学者が持ち出す問題をいくつか解決できる。ある批評学の意見によれば創世記46:1-27は二次資料だという。すなわち「創世記46章の初めにおいて、ヨセフ物語とは別の話が始まる・・・したがって明らかに、この箇所はヨセフ物語に含まれない」(“A Study of the Biblical Story of Joseph, 1970:18-22”)。

Fにおいて兄弟たちは「2回」エジプトに行く。したがって対応するF’のエジプト移住のストーリーにおいてもエジプトに「2回」行くモチーフがなくてはならない。しかしF’においてヤコブの家族がエジプトに移住する出来事は1回だけであり、移住についての説明も一つだ(創世記46:28-47:12)。しかし42:1-43:34にある2回のエジプト行とバランスを取るように、移住した家族の系図の説明の前後に工夫を加えている。

エジプト移住は1回だが、それについての説明が2回くり返されるのだ。つまり、創世記46:6「エジプトに来た」(折り返し点Xに属する46:8,27も同様の機能)が1回目のエジプト行に、46:28「ゴシェンの地に行った」が2回目のエジプト行に対応する。

 
 
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