ストーリー詳細構造
[創世記37:2b-11(ストーリー1)の構造]
導入:カナンにおける家族の中でのヨセフの背景(2b-e)
A ヨセフに対するイスラエルの寵愛(3)
B ヨセフに対する兄弟たちの憎しみ(4a)
C ヨセフに対する兄弟たちの沈黙(4b)
D
ヨセフの最初の夢への兄弟たちの反応(5)
E
ヨセフの最初の夢の詳細(6-7)
X
激しくなる兄弟たちの憎しみ(8)
E'ヨセフの2番目の夢の詳細(9-10a)
D'ヨセフの2番目の夢へのヤコブの反応(10b)
C'ヨセフへのヤコブの語りかけ(10c)
B'兄弟たち、ヨセフをねたむ(11a)
A'ヤコブ、このことを心に留める(11b)
[創世記37:12-36(ストーリー2)の構造]
導入:ヨセフの兄弟たち、シェケムの牧草地に出かける(12)
A ヨセフに対するイスラエルの命令(13a-b)
B 父、忠実な息子ヨセフを送る(13c-14)
C ヨセフ、兄弟たちを探し、見つける(15-17)
D
ヨセフを除くための兄弟たちの最初の企て(18-22)
X
ヨセフへの兄弟たちの乱暴(23-24)
D'ヨセフを除くための兄弟たちの2番目の企て(25-28)
C'ルベン、ヨセフを探すが見つからない(29-30)
B'忠実でない息子たち、父にヨセフの長服を送る(31-33)
A'ヨセフについてのヤコブの嘆き(34-35)
結び:ヨセフ、売られてエジプトへ行く(36)
[創世記38:1-30(ストーリー3)の構造]
導入:ユダ、父と兄弟たちから離れる(1-5)
A 子のないやもめ(6-11)
a タマル、やもめの服を脱ぎ、遊女の服を着る(14)
b ユダ、タマルを遊女として買う(15-16b)
B x
ユダ、約束のしるしを与える(16c-18b)
b'ユダ、タマルとともに寝る(18c)
a'タマル、遊女の服を脱ぎ、やもめの服を着る(19)
a 約束の子やぎを送るがタマルは見つからない(20)
b アドラム人、遊女を探す(21a)
X x
アドラム人への答え(21b)
b'アドラム人、ユダに状況を報告する(22)
a'約束のしるしは戻らず、タマルは見つからない(23)
a ユダ、タマルが売春によって身ごもったことを告げられる(24a-b)
b ユダ、タマルを焼き殺すよう命令を発する(24c)
B' x
ユダ、タマルの示すしるしを見て自分のものだと認める(25-26a)
b'ユダ、タマルが自分より正しいことを公に認める(26b)
a'ユダ、タマルと二度と関係を持たない(26c)
A'やもめにふたごが生まれる(27-30)
[創世記39:1-23(ストーリー4)の構造]
状況説明:ヨセフ、イシュマエル人によってエジプトのポティファルに売られる(1)
A ヨセフ、ポティファルの家で成功する(2-6a)
B 解説:ヨセフは美男子だった(6b)
C ポティファルの妻の欲望(7a)
D
ポティファルの妻、ヨセフに言い寄る(7b)
X
ヨセフ、罪を犯すことを拒否する(8-9)
D'ポティファルの妻、ヨセフに言い寄る(10-12)
C'ポティファルの妻の欲望、拒絶される(13-18)
B'解説:ヨセフ、王の監獄に入れられる(19-20a)
A'ヨセフ、ポティファルの監獄で成功する(21-23)
[創世記40:1-23(ストーリー5)の構造]
A ヨセフ、献酌官と調理官に出会う(1-4)
B 献酌官と調理官、同じ夜に夢を見る(5-8)
C 献酌官長の夢のときあかし(9-13)
X
ヨセフ、献酌官長にとりなしを願う(14-15)
C'調理官長の夢のときあかし(16-19)
B'献酌官と調理官の夢、同じ日に成就する(20-22)
A'献酌官、ヨセフを忘れる[調理官は死ぬ](23)
[創世記41:1-57(ストーリー6)の構造]
A パロの夢(1-8)
B 献酌官長、ヨセフのことを思い出す(9-13)
C ヨセフ、パロの前に出る(14)
D
パロ、自分の夢の詳細を語る(15-24)
E
ヨセフの解き明かしと助言(25-36)
X
ヨセフに神の霊が宿っていること(37-38)
E’パロ、ヨセフの力を認める(39)
D’パロ、ヨセフにエジプト全土を支配させる(40-45)
C’ヨセフ、パロの前を去る(46-49)
B’ヨセフ、神の御恵みのゆえに苦しみを忘れる(50-52)
A’パロの夢、現実となる(53-57)
[創世記42:1-38(ストーリー7)の構造]
A ヤコブ、息子たちをエジプトに食糧購入に行かせる(1-5)
B エジプトにおけるヨセフの支配(6)
C ヨセフ、兄弟たちを見つけて夢を見た時のことを思い出す(7-9a)
D
ヨセフ、兄弟たちに間者の容疑をかける(9b-13)
E
ヨセフの第一の試し(14-16)
X
ヨセフ、兄弟たちを監禁する(17)
E'ヨセフの第二の試し(18-20)
D'兄弟たち、罪を告白する(21-22)
C'ヨセフ、兄弟たちから離れて泣く(23-24)
B'「国の支配者」による兄弟の取扱い(25-34)
A'ヤコブの前で食糧の袋が開かれる(35ー38)
[創世記43:1-34(ストーリー8)の構造]
A ききんはひどかった(1-2)
B イスラエル、ベニヤミンを兄弟たちとともに行かせる(3-15)
C ヨセフ、ベニヤミンを見る;食事の用意がなされる(16-17)
D
兄弟たち、ヨセフの復讐を恐れる(18)
E
兄弟たち、ヨセフの家の管理者に家の近くで語る(19-22)
X
管理者の答え「神があなたがたのために袋の中に宝を入れてくださった」
E'兄弟たち、家に招かれ、もてなしを受ける(24-25)
D'兄弟たち、ヨセフを伏し拝んであいさつする(26-28)
C'ヨセフ、ベニヤミンに会う;ヨセフ泣く;食事が出される(29-31)
B'ヨセフ、ベニヤミンを特別に処遇する(32-34b)
A'兄弟たち、自由に飲み食いする(34c)
[創世記44:1-34(ストーリー9)の構造]
a ヨセフ、家の管理者に計略を指示する(1-2)
b 兄弟たち、帰途につく(3-4a)
c ヨセフ、家の管理者に計略を指示する(4b-6)
A x
兄弟たち、無罪を主張する(7-10)
c'家の管理者、計略どおり銀の杯を発見する(11-12)
b'兄弟たち、衣を裂き町に引き返す(13)
a'ヨセフ、計略どおり兄弟たちの罪をとがめる(14-15)
X ユダ、兄弟たちの罪を認める(24-29)
a ヨセフの裁き:ベニヤミンが取られる(17)
b ユダ、裁きの撤回を願う(18)
c ユダ、最初のエジプト行を語る(19-23)
A' x 兄弟たち、父の前で無罪を主張する(24-29)
c'ユダ、ベニヤミンが戻らない場合の予想を語る(30-31)
b'ユダ、裁きの撤回を願う根拠を語る(32)
a'ユダ、ベニヤミンの身代わりを申し出る(33-34)
[創世記45:1-28(ストーリー10)の構造]
A ヨセフ、自分の素性を兄弟たちに明かす(1-4)
B ヨセフ、兄弟たちに語る:神による恵み(5-8)
C ヨセフの招き(9-13)
X
ヨセフ、兄弟たちを抱きしめる(14-15)
C'パロの招き(16-21a)
B'ヨセフによる恵み:ヨセフ、兄弟たちに語る(21b-24)
A'兄弟たち、ヨセフの生存を明かす(25-28)
[創世記46:1-30(ストーリー11)]
A 神、ベエル・シェバで夜の幻を通してイスラエルに語る(1-7)
X ヤコブの系図 [ヨセフのストーリー全体の中心部](9-27)
A'ヨセフ、エジプトでイスラエルに現れる
[幻が現れる意味で のみ使われる単語](28-30)
[創世記46:31-47:27(ストーリー12)]
A ヨセフ、家族がパロの好意を得られるよう準備する(46:31-34)
B ヨセフ、兄弟のうち五人をパロに引き会わせる(47:1-2)
C 兄弟たちがエジプトに来た理由:ききん(47:3-4)
D
パロの布告:ヨセフの家族をエジプトに住まわせる(47:5-6)
X
ヤコブ、パロを祝福する(47:7-10)
D'ヨセフ、家族をエジプトに住まわせる(47:11-12)
C'ヨセフが銀を集めた理由:ききん(47:13-19)
B'ヨセフ、民から収穫の五分の一をパロに納めさせる[祭司
は例外](47:20-26)
A'イスラエル人、エジプトで繁栄し増える(47:27)
多くの中心的なテーマにおいて、会話の重要性を強調するためにキアスマスが用いられる。創世記47:7-10は強調としてキアスマスが用いられている好例である。
[会話の強調]創世記47:7-10]
a ヤコブ、パロに引き会わされる(7a)
b ヤコブ、パロを祝福する(7b)
c パロの質問(8)
c'ヤコブの答え(9)
b'ヤコブ、パロを祝福する(10a)
a'ヤコブ、パロの前を去る(10b)
[創世記47:28-48:22(ストーリー13)]
A ヨセフの約束:イスラエルをカナンに連れ戻す(47:28-31)
B ヨセフ、イスラエルの祝福を求めてマナセとエフライムを連れてくる(48:1-12)
C イスラエル、手を交差してヨセフの子らを祝福する(48:13-14)
X
イスラエル、ヨセフを祝福する(48:15-16)
C'ヨセフ、イスラエルが手を交差していることに抗議する(48:17-18)
B'イスラエル、エフライムとマナセを祝福する(48:19-20)
A'イスラエルの約束:神がイスラエル人をカナンに帰してくださる(48:21-22)
[創世記49:1-33(ストーリー14)]
A ヤコブの息子たち、ヤコブのもとに集まる(1)
B 預言の始まり(2)
C レアの息子たちへの祝福(3-15)
D
ビルハの一番目の息子への祝福(16-18)
X
ジルパの息子たちへの祝福(19-20)
D'ビルハの二番目の息子への祝福(21)
C'ラケルの息子たちへの祝福(22-27)
B'預言のおわり(28)
A'イスラエル、自分の民に加えられる(29-33)
[創世記50:1-26(ストーリー15)]
A イスラエルの埋葬の計画(1-3)
B ヨセフ、パロに願う(4-6)
C イスラエルの埋葬の準備(7-9)
X
イスラエルの悲しみ(10-12)
C'イスラエルの埋葬(13-14)
B'兄弟たち、ヨセフに願う(15-21)
A'埋葬の計画とヨセフの死(22-26)
■創世記50章の重要性
創世記50:1-26のキアスマスは際立っており、ヨセフのストーリーを特徴づけている。このキアスマスの中心は、イスラエルの死に対する深い悼み悲しみである。創世記50章には、ストーリーの主題を指し示す単語やキアスマスが多い。クライマックスに向かい、クライマックスを過ぎると、それ以前とは流れが反転し、ヨセフのストーリーを完結させる。
本文にははっきりとした統一性があるが、それはキアスマス構造になっているためばかりではなく、創世記50章全体が有機的につながっているためでもある。文学的にも美しく統一されているのだ。
■創世記50章の概略
「ストーリー15」のA〜Cは父親に対するヨセフの忠実さを強調する。ヨセフは、父の存命中に忠実であった(創世記37:2, 13)ように、その死に際しても忠実である。創世記47:29の約束と、その成就である50:4-8を対比されたい。
C'〜A'は結びであるが、創世記50章だけでなくヨセフのストーリー全体の結末でもある。イスラエルは先祖たちとともに葬られ、ヨセフの兄弟たちの請願が行なわれ、最後にヨセフ自身が葬られる。
■創世記50章 A-A'の関係
創世記50章のキアスマスはこの章が重要性であることを示す。AとA'はそれぞれ導入と結語であり、キーワードは「死」と「約束」である。
ヤコブは12人の息子たちを祝福した後、自分がこれから死んで先祖たちに加えられることを告げる。ヤコブは、ヨセフとその兄弟らに誓わせて、マクペラのほら穴に自分を葬るように指示した。これは他の族長たちや彼らの妻たち、またヤコブの妻だったレア(ラケルについては明記されていない)も葬られている場所だ(創世記49:29-32)。最後の指示を与えた後、ヤコブは147歳の生涯を終える(創世記47:28)。
A'はAの繰り返しであり、両方において死者をミイラにする話が語られる。前者はヤコブ、後者はヨセフである。
また、AとA'の記述には対位法も使われている。ヨセフは父との約束を果たすために、カナンへの長い移動に耐えられるよう、死んだヤコブをミイラにする。それからヨセフは兄弟たちに(つまりその子孫にも)約束させて、神が彼らをエジプトからカナンに連れ出すときには自分の骨を携え上るよう指示した。結果的に、骨が風化してちりに帰らないように彼らが選んだ方法は、ヨセフをミイラにすることであった。
|